さまざまな相続財産の評価と調査方法
相続財産と一言に行っても、土地、建物、車、株券、借金などさまざまな物があります。
はじめにその性質を見ていきましょう。
まず、考えなければならないのは二点。それが分けられるものなのか、そうでないかと積極財産なのか消極財産なのかです。
たとえば、建物は分けられない積極財産です。では、土地はどうでしょうか。土地は分けられる積極財産です。
ですが、土地を分けてしまうと権利関係がややこしくなるのを嫌がる人もいます。
本来、遺産分割協議は法定相続分からは少しはずれても、合理的な相続をしようと相続人たちが行うものであります。
分けられる遺産だからといって、無理にわける必要はありません。
消極財産である債務に関しては、原則として積極財産の割合に応じて相続します。
つまり、基本的に債務は分けられる遺産になります。
積極財産と分けて考える必要があるのは、債務は権利者が第三者になるからです。
その権利者を無視して好き勝手に決めることができないからです。
預金(金銭債権)の場合
まずは債権から見ていきます。
預金などの金銭債権は、被相続人が亡くなった日付の数字で換算します。
利息などもこの日付が基準となって計算されることになります。
相続配分が決まっているならば、その配分通りに分けることができますが、金銭債権は数字で換算できるために、ほかの種類の遺産と併せて配分が考慮される場合が多いでしょう。
金融機関から引き出すためには、次のいずれかの手続きが必要です。
相続人の間で争いがなく、遺産分割協議が速やかに行われた場合には金融機関に備え付けの同意書、もしくは遺産分割協議書に、遺産分割協議に参加する全員の実印の押印、印鑑証明書を添付して提出します。
相続人の間に争いが生じた場合には、家庭裁判所での審判もしくは調停を経なければなりません。
この家庭裁判所での遺産分割が整った場合、家庭裁判所の審判書謄本、もしくは調停調書の提出を行うことでようやく遺産を引き出すことができます。
遺産は望んで、かつ金銭評価が可能なものならば、数字で評価することができますが、金銭債権の場合は額面通りの評価がほとんどです。
不動産の場合
不動産とは土地と建物のことを指します。
不動産に特有なのは、登記制度があるということです。
不動産登記制度は、重要な財産である不動産の状況と権利関係を、登記簿をもって正確な不動産取引の安全を図ることを目的としています。登記簿に必要事項を載せることを登記と言います。
相続に関連する場合、登記は取引の安全を図ることが目的なので、取引をしない場合には相続者が決まるまで登記しなくても問題ないように思われます。ただ、その不動産に第三者が侵害を加えてきた場合、登記簿上は故人の財産なので不都合が生じます。
分割前の財産ですので、相続人共有の財産ですが、それでも登記するのは財産を保護するためでもあります。
不動産は遺産の中でも割合が大きくなる場合が多いです。ですので、しっかり評価したいところですが、不動産の評価の方法はさまざまありますので、争いの原因にしないためにも、相続人全員が納得できるような取り決めをしましょう。
また、不動産のローンが残っている場合もあるかと思いますが、ローンは債務であって不動産ではありませんので、その物件とは分けて考えて下さい。
生命保険金の場合
預金が金融機関に対しての債権であるように、生命保険は保険会社に対しての債権です。生命保険金が相続に関係するケースは大きく分けて二通りあります。
まず一つは、生命保険の受取人が被相続人だった場合です。
この場合、保険金を受け取る権利は被相続人の財産なので、相続に含まれることになります。
ただ、保険金の受取人は個人でしかなれない場合が多いので、通常では受取人が受け取った後に相続人の間で分割が行われることになります。
もう一つは、被相続人に生命保険がかけられていて受取人が相続人の場合です。生命保険金を受け取る権利は、通常、保険契約によって発生するものですので、受取人の固財産とされています。
ですから、この相続人が特定の相続人だった場合、それは受取人の権利であるので相続に関係なく受領できます。もちろん、遺産分割の対象にもなりません。
ただ、受取人の欄に、ただ「相続人」と書かれていた場合は、相続人の間で分割することになります。この分割の割合は、法定相続分に基づくという解釈と平等に分配されるという解釈がありますが、通常は保険会社の契約約款に定められた方法に従うことになります。
ちなみに、保険会社の約款には平等に分配するように定められています。
有価証券の場合
有価証券とは、簡単に言うと権利の証しとなるものです。
国債や株式、小切手、手形、社債権、ゴルフ会員権、商品券などもこれに当たります。たとえば、国債であれば国に対しての債権、株券であれば株式会社に対しての債権ということになります。
以前は、株式は株券を持っていなければ相続財産として認められない場合もありましたが、現在では新会社法施行によって株券が電子化され、株券を所有するということがありません。
ですから、財産目録などを被相続人が残していない場合、株式の存在に相続人が気づかないこともあります。株式の配当金などが故初めてその存在が判明するといった場合もあります。
有価証券の評価は、額面が書いてあるものに関してはどんなにインフレやデフレ、不祥事によって価値が変わろうとも額面通りの評価になります。
額面が書いていないものに関しては、そのときの時価で評価されることになります。
ただ、取引相場のない非上場株は評価も難しく、評価の方法はさまざまな方法がありますが、正式には専門の知識を持つ人の鑑定が必要とされるものです。ただ、相続人同士の協議においてその価値を決めることもできます。
動産の場合
動産は債権と不動産以外のものを言います。
テレビやパソコン、時計、指輪、自動車など身の回りにあるもの、ほぼ全てが動産と言っていいでしょう。ですので、自動車や貴金属など貴重なものを除いて、形見分けなどで処理されることが多く、処分されるものも少なくありません。注意事項としては、形見分けの項を参照してください。
しかし、中には価値が高く、遺産分割協議でしっかりと扱うべきものもあります。
具体的な判断基準としては、役所などに所有していることを申告しているものがあげられます。自動車や船舶、日本刀、猟銃、申請が必要な特別な薬品などがこれにあたります。
その他には、貴金属やアンティーク、美術品、機材など、価値判断が素人には困難な物もこれに含まれると思います。貴金属などは、一般的な相場が判断しやすいものでありますが、アンティークや美術品などの価値評価は専門家でなければ難しいものでもあります。
動産は価値が低いものが多いために、管理も厳密に行われないことがあります。そのために、相続人の共有財産である動産を、特定の相続人が勝手に形見分けをするなどといったこともよくあります。
動産は不動産と違って、無権利者からの譲渡であっても、譲り受けた者が善意無過失に相手方を信じて譲渡を受けとっていたとすると所有権を取得できることになります。
この場合、あとで返してもらうことはできませんので、価値のありそうな動産などはしっかり管理しましょう
債務の場合
繰り返しになりますが、債務も相続の対象となり、それは基本的に相続人が相続する割合に応じて分けられます。
債務のケースには、被相続人が債務者である場合、保証人である場合、連帯保証人である場合の3つがあります。債務を相続する場合は何度も述べましたので、ここでは保証債務の相続について見ていきます。保証債務は、他人の債務に対して、保証責任を負うという債権者と結ぶ契約のことを言います。この保証債務も遺産として扱われ、相続の対象になります。
これは連帯保証人の場合も同様です。
また、被相続人から相続人が借金をしているケースもよくある話です。この場合、借金をしていた相続人はまず相続する割合に則って、「自分が債務者である債権」を相続します。
すると、債務者と債権者が同一人物になり、その債権と債務は消滅します。ただ、ほかの相続人が相続した債権は有効なので、それに関しての債務は消えることはありません。
債務を相続するリスクは、ある程度の計算で予測できるので、そこまで高いものではないと思うかもしれません。
しかし、保証人と連帯保証人ではその限りではありませんし、相続して数年後に新たな債務が発覚する場合もあります。生前に被相続人が債務を重ねていたようであれば、新たな債務が出てこないか調べることはとても重要だと思います。